術後の看護

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手術療法はメスやファイバースコープを使用して人体を傷付ける治療法で、生体にとっては大きな侵襲となりわね

手術療法に使用する麻酔は、身体的機能を一時的に機能不全に陥らせるため、これも生体にとって侵襲になるわ

でも病巣に直接アプローチできるこの手術療法は、症状の改善や根治が望めるため健康回復においてメリットが非常に大きいものでもあるのよ
看護師は、手術侵襲からの早期回復を促進するとともに、異常の早期発見を行えるよう、侵襲に対する生体反応と観察のポイントについて理解しておく必要があるわ。

今回はそこを学習するための解説するわね

侵襲に対する生体反応

1神経内分泌系

手術による組織損傷からの求心性知覚神経刺激や出血、体液の喪失、不安などの刺激は、視床下部に伝達され、遠心性自律神経を介し、交感神経や下垂体前葉、副腎などを賦活化し、以下のような様々なホルモンが分泌されます。

① カテコールアミン

交感神経の興奮により、副腎髄質・交感神経末端から分泌。
心拍出量増大、末梢血管収縮、血圧上昇により循環を維持し、重要臓器の血流を保持する。

② コルチゾール

手術刺激が視床下部から下垂体前葉に伝達され、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)分泌が促進され、そのACTHが副腎皮質に作用し、コルチゾールの分泌を促進する。

糖新生の亢進により血糖値が上昇、骨格筋などのたんぱく異化を促進し、生命維持のために必要なエネルギーを確保する。

③ 抗利尿ホルモン(ADH)

下垂体後葉から分泌され、腎臓での水とナトリウムの再吸収を促進し、循環血液量を維持する。

2炎症反応

手術による組織の損傷がおこると、炎症反応が引き起こされます。
炎症反応は免疫細胞を活性化し、サイトカイン(情報伝達物質)が産生されます。

これが過剰に反応すると、自らを攻撃して防御機能が減弱化し、感染や出血などの術後合併症を引き金として容易に臓器不全に陥ってしまいます。

3回復過程

術後侵襲により生じた生体反応は、徐々に回復し正常化していきます。
この回復過程の学説のひとつに、ムーア(MOORE)の説があります。ムーアは一般的な術後の内分泌・代謝の変動の推移を4相に分類して説明しています。

① 第一相(障害期)

副腎系の亢進により、アルドステロン・コルチゾールなどの分泌亢進、抗利尿ホルモン亢進による水分の貯留、たんぱく異化亢進がおこる。
体温上昇や頻脈、腸蠕動の停止や減弱がおこる。周囲への無関心がみられる時期である。

② 第二相(転換期)

内分泌・代謝系の変動が減少傾向となり、循環系が安定する。腸蠕動も回復し、食欲が出る。周囲への関心がみられるようになる。

③ 第三相(筋力回復期)

食欲増進、体力回復がみられ、日常生活が正常化する。

④ 第四相(脂肪蓄積期)

心身ともに術前の状態に復帰できる時期である。

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術直後の観察

モニタリングのポイント

  • ① 手術侵襲や重症度に応じた間隔でのモニタリングを行う。
  • ② 術前の状態との比較を行う。
  • ③ 起こりうる術後合併症を予測して観察する。
  • ④ 生体防御反応を考慮してアセスメントをする。
1意識

術後は、麻酔の覚醒状況や意識障害の有無を確認するために、意識レベルの観察が必要になります。手術が終了したことや、現在の場所などを伝え、反応を観察したり、呼名や質問などの返答により意識レベルを確認していきます。

2呼吸

麻酔の影響により、術前と比較し最大換気量の減少や酸素消費量の増大がおこります。また、麻酔や疼痛の影響により、換気や血液の酸素化が障害されるリスクもあります。

医師の指示のもと、確実な酸素療法を実施し、麻酔覚醒後より深呼吸を促し、呼吸器合併症の予防に努める必要があります。

観察点
  • 呼吸数
  • 呼吸のリズム
  • 酸素飽和度
  • 肺副雑音
  • チアノーぜの有無
  • 喀痰の有無と性状

上記の観察点に加え、酸素投与量や方法、動脈血ガス分析の結果、胸部X線の検査結果などを継続的にアセスメントしていく必要があります。

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3循環

術後には、麻酔の影響に加え、サードスペースへの細胞外液の移行によって、有効循環血液量は不足します。

一方、代謝が亢進し、組織の酸素消費量は増大するため、必要循環血液量は増加します。

観察点
  • 体温
  • 脈拍
  • 血圧
  • 尿量と性状
  • ドレーンの排液量
  • 出血の有無と程度
  • IN/OUTバランス(必要時、中心静脈圧やスワンガンツカテーテルによる心拍出量、肺動脈楔入圧を測定する)
  • 心電図波形(心拍数、不整脈の有無)
4術後疼痛

手術にともなう組織の損傷による侵害刺激と、炎症反応によって生じる生体防御反応の一つです。疼痛は様々な生体反応を引き起こし、全身に悪影響を及ぼすため、看護師は疼痛のアセスメントを行い、疼痛緩和により安楽を提供していく必要があります。

観察点
  • 疼痛の有無と部位、程度、性質(どんなふうに痛むか)
  • 疼痛によるバイタルサインの変動の有無
  • 患者の表情、言動、反応、体位
  • 疼痛に影響をおよぼす要因の有無(不安、不眠、疲労、拘束感、孤立感、不信感、抑うつ状態など)
  • 鎮痛剤の使用と効果
  • ドレーンの固定状況

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5創傷

創傷の治癒過程は、一次、二次、三次に大別されますが、術後は一般的に一次治癒創にあたります。

一次治癒創は、鋭利に切離した創が、縫合または接着して治癒した場合のことをいい、この場合は創傷被覆材(ドレッシング剤)を貼り付け、術後の縫合創を密 閉して湿潤環境を保つことにより、患者の治癒力による創傷治癒を促進します。

浸出液には増殖因子が含まれ、表皮細胞の増殖を助けます。ガーゼ保護などによ る乾燥した環境では、増殖因子の欠乏や痂皮形成により表皮細胞の増殖を妨げてしまいます。

しかし、過剰の浸出液は創が浸軟し治癒遅延につながるため、ある 程度は吸収させる必要があります。

一次治癒はおよそ48時間で上皮化し、バリア機能を持つようになるため、術後48時間以内は滅菌創傷被覆材を貼用したままにしておき、微生物などが付着する機会を作らないようにする必要があります。

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観察点
  • 創部の感染兆候(発赤、圧痛、腫脹、熱感)の有無と程度
  • 出血、浸出液の量と性状、色調
  • ドレーンからの排液量、性状、色調
  • ドレーン周囲の皮膚障害
6その他の術後ケア

① 食事

栄養状態の把握、消化器症状の有無を観察し、患者の病態に応じた栄養管理を行います。栄養状態の不良は、創部の治癒や全身状態の回復を遅らせることにもなるため、静脈栄養・経腸栄養・経口摂取による栄養補給を維持しなくてはなりません。

術式によっても、食事の開始時期や食事の形態が変わってくるため、その患者に応じた観察とアセスメントが必要になります。

② 清潔

清潔による感染予防や清潔の保持だけでなく、術後の体動を促進したり、全身の観察を行ったりする好機となります。

③ 睡眠

術後の不眠は患者の疲労や体力消耗につながるだけでなく、術後せん妄の要因となってしまいます。生活リズムを整え、不安の緩和、疼痛管理を行い、夜間の睡眠を促していく必要があります。

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④ 排泄

ドレナージに起因した合併症を予防し、安全安楽の管理、効果的なドレナージによる排泄を促進する必要があります。膀胱留置カテーテルが挿入されている場合は、早期の離床を促し、速やかにカテーテルの抜去、自然排泄への移行をはかりましょう。

術後の看護は急性期看護の中でも最も重要となってくる部分です。きちんと正常な反応と異常な変化を理解しておくことで、安心して患者さんを看護することが できます。ひとつひとつ、その経緯を理解しながら、経過を観察していきましょう。